たけぴょん日記

某理系大学院卒、自然栽培農家見習い。

農業生産法人で半年間働いて思うこと、収益改善のカギはどこにあるか

農業生産法人で働き始めて約半年が経つ。この半年間、どうすれば農家の暮らしが経済的に良くなるかを考え続けてきた。農業に興味を持ったキッカケは、ベトナムの農村部の農家が貧しいことを知り、既に機械化が進んだ先進的な日本でさえも農業が衰退している状況から、現状の先には未来はないと感じたからだ。そこで、先ずは私自身が農業生産の現場に携わりながら、栽培技術を身に付けると共に、農業生産における事業特性を知ることから始めた。

 

半年間働いて思うことは、農業だから儲からないというよりも、それ以前の当たり前のことが出来ていない点が大きい。当たり前というのは、他産業において当たり前であったり、儲かっている会社では当たり前に行っていることである。それが出来ていないために収益が伸びていない。これから述べることは、私が働いている農業生産法人の一例であって農業全体には当てはまらないかもしれない。しかしながら、農業生産法人、もしくは儲かっていない会社にも当てはまるのではないかと考えている。

 

事業内容が分かるように、弊社の事業概要を簡単に共有しておく。事業のコンセプトは、無化学肥料・無農薬で栽培した農作物によって、環境負荷が低く、安心できる農作物を提供することである。ビジネスモデルは、会員に対する定期宅配がメインで、その他にレストラン、マルシェ等で販売をしている。オーガニックや環境が好きな人向けのビジネスだ。

 

では、実際に順に改善点について話していく。私は畑作を担当しているので、野菜生産現場を想像しながら聞いて欲しい。

 

1 作業計画不足

年間作付け計画レベルでは計画が立てられているが、実際の圃場での作業計画まで見通せていない。当然ながら、作業計画を細かくしすぎるのは時間が掛かるので避けるべきであるが、明らかに作業計画不足による生じている無駄な作業がある。1つの例として、敷き草の移動が挙げられる。弊社では休耕地を圃場整備する際に、膨大な量の刈り草が出る。それを1トントラックに積んで移動させ、最終的には敷き草にする。圃場の大きさにもよるが、仮に1反の圃場当たり積荷、移動、積み下ろしで計4時間近く掛かるとする。計画を立てていれば、1回の移動で終わる作業が、作業計画を先まで見通せていないために、トータルで4回も移動をさせることになった。つまり、4時間×3の12時間の無駄が生じてしまった。

 

2 需要と供給のマッチングの失敗

農業生産は工業生産とは違い、天候の条件によって左右されるため、需要量に対して多く生産するのが基本である。しかしながら、弊社では明らかに供給量が多く、出荷することが出来ずに廃棄してしまった経験がある。4月に播種したベか菜を例に話をする。ベか菜は、温度や日長条件によってとう立ちすると出荷できなくなるのだが、その無駄にした量が約4500株程度あった。もし全て売れていた場合、約15万円の売上に相当する。べか菜を作るために掛けた時間(圃場整備、播種、除草)を考えると、約1週間近い作業労働時間を無駄にしたのと同じことである。

 

なぜこのようことが起きてしまったのか?それは栽培記録の欠如が原因である。栽培記録というのは、消費者に対するトレーサビリティだけでなく、作付け計画と実際の生産とのギャップを知ることに目的がある。栽培記録には、気温、播種日、除草、収穫日などを書き込む。栽培記録をがないとどうなるか?作付け計画をする際に、明確なデータがないため、曖昧な記憶を頼りに作付けするしかない。結果、需要供給のマッチングに失敗してしまった。

 

3 捨てるのがもったいないという意識

捨てるのがもったいないという意識が、結果として作業時間の増加を生んでいる。例として、じゃがいもの植え付けがある。じゃがいもの種芋は、20g以下のものは大きく育たないので植えつけないのが一般的である。しかしながら、20g以下の種芋であっても小ぶりなじゃがいもが収穫出来るため、捨てるのがもったいないと考え作付けする。結果、小さい種芋では需要量に対して多くの量が必要になり、必要な圃場面積が増え、作業時間が増加する。大きい種芋であれば、作業時間が少なくてすみ、また空いた圃場を使って他の作物を作ることが可能である。

 

4 5Sの概念の欠如

5Sとは、トヨタ流の片付け術で、整理、整頓、清潔、清掃、躾の略だ。弊社は片付けが出来ていない、というよりその意識そのものが欠如している。例えば、梱包所、道具を置く倉庫には、廃棄すべきものが山積している。いつかは使うかもしれないという意識から中々捨てられない。また、各道具を置く場所は決まっているが、圃場であったり、違う場所に置いたままにしているため、道具が直ぐに見つからない。このようなことが日常茶飯事だ、必要な資材が把握できていなかったり、必要なものをすぐに取り出せない状況にある。そのため、探すのに一苦労である。頻繁に使うものは取りやすい場所に置いておくだけで、時間の短縮が出来るだろう。

 

5 必要資材買出しの頻度の多さ

ボードンやダンボールなどの梱包資材の大量購入が出来ていない。そのため、月に何度もホームセンターまで買出しにいかなければならない。買出しの時間、燃料費の無駄が生じている。

 

無駄な作業について言い出すときりがないが、主だった問題点は上記に述べた通りである。無駄とはその作業から何も付加価値を生まない作業の事だ。この無駄を取り除くだけでも、かなり収益が改善すると考えられる。無駄を取り除く事で生まれた時間を使って、新たな販売先向を開拓すれば収益が向上するからだ。他の産業に比べて収益が出ないのは事実だが、一歩一歩農家が努力して足元を固めていくしかない。