たけぴょん日記

某理系大学院卒、自然栽培農家見習い。

農薬に対する誤解と偏見

必ず農業において話に出てくるのが、農薬の危険性です。

 

”農薬は人体に有害な影響を及ぼす”

 

というのが、一般的な認識だと思います。なぜなら、無農薬をキャッチコピーにした有機野菜が売られているので、農薬=危険と考えるのは当然だからです。しかしながら、ネットで農業コラムを読んでいると、農薬は危険ではないと唱えている人が存在します。一体どっちが本当なの?というのがこの記事の出発点です。

 

結論から言うと、”現在の農薬は消費者への影響は極めて低い”です。驚かれる方もいるかもしれませんが、順に説明していきます。農薬の人体への影響は、残留農薬で測ることが出来ます。その残留農薬の基準の算出方法ですが、該当する農薬について、動物が一生涯毎日摂取しても健康に影響が出ない量を安全係数100で割り、その数値を人の一日許容摂取量(ADI)として定めます。つまり、仮に基準値に満たしている農産物の100倍食べたとしても、動物実験において影響が出ないレベルに収まるということです。簡単に言えば、ADIは「人が一生涯にわたり摂取しても健康上のリスクがない」ということです。相当厳しい基準によって残留農薬は設計されていることが分かります。

 

上記に述べたのは絶対的な評価ですが、相対的な評価から安全性を確認することが出来ます。食の危険性とは、毒性×摂取量です。下の表を見てください。LD50値とは、供試した動物の半数が死に至る物質の量を、動物の体重当たりで示した数値です。つまり、この数値が小さいほど毒性が強いことになります。

 

各種化学物質の急性毒性

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引用)内田又左衛門「持続可能な農業と日本の将来」

 

表を見ると分かるように、必ずしも農薬が他のものと比べても毒性が高いという数値ではありません。例えば、タバコに含まれているニコチンや、コーヒーに含まれているカフェインの方が毒性が強いと言えます。つまり、農薬は規定内の量で散布される限り、極めて人体への影響が低いと言えます。

 

では、なぜ農薬は危険だと言う人がいるのか?複合汚染を著した有吉佐和子は嘘つきなのでしょうか?過去の農薬は毒性が強いものがあったが、現在の農薬の毒性はかなり低いが正しい認識です。下の表における農薬による農業者の事故数を見てください。

 

農薬による農業者の事故(人数)

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【注】昭和32-50年は厚生省薬務局監視指導下の調べによる数値より平均値

昭和51-平成9年は農林水産省農蚕園芸局の調べによる

誤用とは、誤飲、誤食等指し、自他人殺は含まない

 

これは消費者への影響ではありませんが、農業者の農薬事故の人数の推移です。昭和30年代には680人、そこから年々減少ていき、平成1年には44人まで減っていることが分かります。このデータから、過去の農薬の危険性がいかに高く、現在の農薬の危険性がいかに低くなったかが分かります。農家の人体への影響は、消費者の何千倍、何万倍と言われていることを考えると、現在の農薬は極めて安全になったと言えます。

 

一方、農業者への事故件数は減ったといっても、平成9年においても43件あります。これを多いと判断するかは人にもよると思いますが、たけぴょんとしては事故数が0になっていない以上、農薬は農業従事者にとっては依然として危険性を孕んだものであると考えています。

 

最後に、安全と安心は違うということを話したいと思います。安全とは科学的証明があるもの、安心とは人々がどう思うかです。いくら農薬は安全だと声高に叫んでも、多くの人は何となく嫌だなと思うかもれません。かく言う私も、何となく嫌なので出来るだけ無農薬のものを食べます、言ってしまえば人の好き嫌いです。大事なのは、正しい情報を届けた上で人々に判断してもらうということです。正しい情報を届けること、これこそが農業関係者の責任です。